質問
高齢(80代)男性。今の病院に入院中の奥さん(81)の状態がだんだん悪くなってきているようなので診て欲しい、と連絡がありました。当院に初診受付をしていたが、動けないので退院させてもらえなかった。そのため検査データと紹介状(前医、現担当医)を送ってこられ、電話相談となりました。
送られてきた検査データは、次のとおりです。
検査項目 | 結果値 | 基準値 |
ALB(BCP) | 2.4 g/dl | 4.1~5.1 以下 |
白血球数 | 6.8 千/µL | 3.5~9.1 以下 |
赤血球数 | 376 千/µL | 376~500 以下 |
血色素量 | 8.7 g/dl | 11.3~15.2 以下 |
ヘマトクリット | 29.0 % | 33.4~44.9 以下 |
MCV | 77 fL | 79~100 以下 |
MCH | 23.1 pg | 26.3~34.3 以下 |
MCH | 30.0 % | 30.7~36.6 以下 |
血小板数 | 30.4 万/µL | 13.0~36.9 以下 |
好中球 | 77.0 % | 40.0~74.0 以下 |
好酸球 | 1.6 % | 0.0~6.0 以下 |
好塩基球 | 0.6 % | 0.0~2.0 以下 |
リンパ球 | 14.9 % | 18.0~59.0 以下 |
単球 | 5.9 % | 0.0~8.0 以下 |
AST(GOT) | 11 U/L | 10~40 以下 |
ALT(GPT) | 12 U/L | 5~40 以下 |
アミラーゼ(AMY) | 82 U/L | 37~125 以下 |
総ビリルビン | 0.3 ㎎/dl | 0.3~1.2 以下 |
総蛋白(TP) | 5.2 g/dl | 6.7~8.3 以下 |
A/G比 | 0.8 | 1.1~2.1 以下 |
尿素窒素(BUN) | 19 ㎎/dl | 8~22 以下 |
クレアチニン | 0.32 ㎎/dl | 0.47~0.79 以下 |
eGFR | 141.3 mL/min/1.73㎡ | |
ナトリウム(Na) | 139 mEq/L | 136~147 以下 |
カリウム(K) | 3.9 mEq/L | 3.6~5.0 以下 |
クロール(Cl) | 98 mEq/L | 98~109 以下 |
血糖 | 193 mg/dl | 70~109 以下 |
HbA1c | 9.1 % | 4.6~6.2 以下 |
CRP | 0.4 mg/dl | 0.3 以下 |
回答
―検査データと紹介状からみるとー
◆典型的な鉄欠乏性貧血はどうして?
ヘモグロビン:Hb(血色素量)が8.7と極端に低値です。年齢からみると、老人性の貧血が考えられます。しかし、驚いたことにMCV 77(小球性)、MCHC 30.0(低色素性)ですので、小球性低色素性の典型的な鉄欠乏性貧血です。
原因として<どこかで出血している><悪性腫瘍のようなものが存在する><極端に栄養状態が悪い>などが考えられます。どこかで出血しているかどうかは、網状赤血球を調べるとわかりますが、ここでは調べられていません。
原因は不明ですが、貧血の治療がすぐに必要な状態です。
治療ですが、鉄の内服は、元々ある粘膜障害のために胃からの吸収ができにくくなります。また貧血の程度が重度なので、静注投与(フェジン2A)が15回程度必要です。
◆低アルブミン血症はなぜ?
アルブミン(ALB)が2.4と低値で、低アルブミン血症の状態です。低アルブミン血症は、腎機能や心機能の低下、炎症があるときに現れます。アルブミンが3.5g/dl以下になると、血漿浸透圧が維持できないため、血液中の成分が漏れてしまい、体中が浮腫み、心臓により負担がかかり心不全がおこりやすくなります。
しかしこの方の腎機能(クレアチニン)は悪くないので、心臓の方も良いと思われます。また炎症(CRP 0.4)もないのでⅽ、出血もなければ栄養失調障害でも起きているのでしょうか。
◆(Ⅱ型)糖尿病
HbA1ⅽ 9.1、血糖 193で、糖尿病の治療がうまくいっていません。
元々糖尿病があったところに、リウマチ性多発筋痛症と診断され、プレドニンを20㎎も投与されました。そして糖尿病がさらに悪化したため、糖尿病薬3種とインシュリンも処方されています。今の状況からすると、全くコントロール不良で、高血糖と低血糖を繰り返しているために、食事が十分吸収できず、体調もひどく悪くなっているのではないかと推測されます。
◆本当にリウマチ性多発筋痛症?
この方は、痛みがあるということで前医を受診。鎮痛剤では全く効果がなかったため、プレドニン20㎎を投与された。すると痛みが消失したので、リウマチ性多発筋痛症と診断されたようです。その後糖尿病の悪化が判明したため、プレドニンは徐々に減量していった。しかし約3か月後、プレドニンの副作用とも考えられる胸椎圧迫骨折が出現。その後も減量は継続していたが、途中でリハビリ目的のため転院となりました。(プレドニン9㎎)
前医からの紹介状には、4週ごとに1㎎ずつ減量の指示がありました。内科の担当医は、リウマチ性多発筋痛症の経験がないため、前医の指示のとおりに減量していたようです。(相談時プレドニン8㎎)
しかしその後、リウマチ性多発筋痛症に関しての検査はしていないようなので、リウマチ性多発筋痛症という診断もはっきりしません。そして、今はCRP 0.4で炎症はほぼありませんので、プレドニンが減量できると思われます。ましてや糖尿病が悪化している状態ですので、早急にプレドニンを減量~中止する必要があります。
相談者であるご主人は、奥さんを退院させるので診て欲しいということでしたが、当院には入院設備がないためお断りしました。すると、「近くで入院できる病院を紹介してほしい」「無理なら紹介状を書いてほしい」ということでした。奥さんのことを診ていないので、当然紹介状は書けません。しかしご主人からの強い依頼もあったので、主治医(整形外科)に連絡をとったところ、糖尿病のこともあるということで、内科の担当医に現状の病態の改善についてアドバイスさせてもらいました。
1.リウマチ性多発筋痛症の診断が正しいのかどうか? 2.プレドニンの減量を早急に(あまりに多い糖尿病薬) 3.鉄剤の投与:経口薬ではなく、静注の方がより効果的 (生食20㎖+フェジン2A(静注)を15回ぐらいが必要) |